| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-420 (Poster presentation)

樹液流束密度の日変化と季節変化 ―カラマツとアカマツの比較―

*宮嶋恵里花, 墨野倉伸彦(早稲田大・院・先進理工), 小泉博(早稲田大・教育)

樹木の蒸散は大気飽差などの環境要因によって変化し、森林生態系の水収支に大きな影響を与えることから、その動態を解明することは重要である。この蒸散の動態は、落葉樹か常緑樹かで大きく異なると考えられるが、同じ環境条件下で両者を比較した例は少ない。そこで本研究では、落葉樹カラマツ (Larix kaempferi) と常緑樹アカマツ (Pinus densiflora) について、蒸散量の指標となる樹液流束密度 (cm3 cm-2 h-1 ) の日・季節変化と、環境要因に対する応答を明らかにすることを目的とした。測定は長野県軽井沢町に生育するカラマツとアカマツを対象に行った。樹液流束速密度はグラニエ法とHFD法を用い、2015年9月上旬から12月上旬まで測定した。

胸高直径あたりの辺材面積と、樹液流束密度はカラマツよりアカマツの方が大きかった。樹液流束密度の日変化は、両種とも大気飽差に依存しており、晴天では日中に最大となる明瞭な変化を示した。一方、雨天では明瞭な変化は認められず、一日を通して低い値を示した。また、晴天での最大値は個体ごとに異なったが、それぞれの胸高直径と正の関係を示していた。次に、黄葉・落葉の前後に着目すると、カラマツの樹液流束密度の明瞭な日変化は、黄葉開始時から徐々に認められなくなった。黄葉完了時には常に低い値を示し、大気飽差との相関も見られなくなった。落葉ではなく黄葉を起点として変化したのは、落葉より前の黄葉の段階で枝と葉柄の間に離層が形成され、蒸散が制限されたためと考えられる。一方、アカマツでは樹液流束密度に大きな季節的変動は認められなかった。これは、常緑樹であるアカマツは冬季のような厳しい環境条件下であっても蒸散を行うことができるためと考えられる。


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