| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-422 (Poster presentation)
地球温暖化の対策として、植物遺体などの有機物を熱分解したバイオチャーが注目されている。森林に散布した場合、難分解という特性により長期に炭素を土壌へ隔離し、また土壌改良剤として樹木の炭素固定能を上昇させる効果が期待される。しかし、バイオチャーが野外環境における森林生態系の炭素動態に及ぼす影響を報告した例はない。そこで本研究では、バイオチャー散布による森林炭素動態の変化を明らかにすることを目的とした。
埼玉県本庄市の暖温帯コナラ林において、10 m×10 mの方形区を5つ用意し、バイオチャーの散布量を4段階(25、50、200、400 kg)に変えた散布区と対照区(C区)を設置した。各区画において樹木成長量とリターフォール量を測定し、純一次生産量(NPP)を算出した。また、土壌呼吸速度(SR)の測定と、先行研究の従属栄養生物呼吸の寄与率から従属栄養生物呼吸量(HR)を算出し、NPPとHRの差を生態系生産量(NEP)とした。
NPP(tC ha-1 yr-1)は散布区(6.5~8.9)のほうがC区(5.4)よりも大きくなった。これは、樹木成長量が大幅に上昇し、また散布量が多いほどリターフォール量が多くなることに起因する。一方、SRは散布区において初期にC区よりも高い値を示したが、散布後6ヶ月以降は常に低い値を示した。これは一時的に有機物分解が加速した後、基質の減少により呼吸速度が制限されたためであると考えられる。これらの結果、NEP(tC ha-1 yr-1)は散布区(0.9~3.5)のほうがC区(-0.6)よりも大きく、400 kg区で最大となった。以上より、バイオチャーの散布は、森林生態系の炭素固定能を上昇させる効果があることが示唆された。