| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-430 (Poster presentation)
森林の栄養塩循環は植物と土壌の相互作用によって成り立っている。温度、水分環境による植物と土壌の相互作用を通した栄養塩循環の変化を明らかにすることは、現在進行しつつある気候変動の影響を予測するためにも重要である。この研究では、同一の優占樹種からなる森林(ブナ林)を対象とし、異なる温度、水分条件が土壌と植物の相互作用にかかわる要因に与える影響を明らかにする。青森県八甲田山において、ブナ(Fagus crenata)が優占する森林で、標高毎に乾湿に差がある計28地点をとり、各地点で、ブナの生葉、落葉、土壌の窒素濃度を測定した。また、標高毎にその場で採取した落葉と乾湿を入れ替えた落葉の分解速度をリターバッグにより測定した。分解速度は重量ベースと窒素ベースの両方で計算した。
土壌の無機態窒素量が低い環境では、再吸収率が高くなることで落葉の窒素濃度が低くなった。その結果、分解による窒素放出速度が低下し、全体に窒素循環速度の低下につながる傾向があった。さらにこの傾向は地温と水分条件の影響を大きく受けており、低温で多湿な環境で最も顕著であった。低温かつ多湿な環境では、生葉の窒素濃度、重量ベースの分解速度、窒素放出速度 などがいずれも低く、窒素循環速度が遅くなっていると考えられた。その傾向は、地温が高くなったり、多湿でなくなったりすると顕著でなくなるため、気候変動などにより、温度が上昇する(あるいは土壌が乾燥する)ことで、こうした窒素循環における植物応答の影響はより低下する と考えられる。