| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-432 (Poster presentation)
タイ北部の落葉性チーク林では,雨季の開始・終了時期の年々変動とともに展葉・落葉時期も年々変動する.先行研究により,土壌水分上昇が展葉開始のトリガーであることが示されている.本研究では,土壌水分量が落葉時期と個葉ガス交換特性に与える影響を解明するため,チーク2個体を対象に乾季からそれぞれ1年間と2年間にわたって散水を行い,それらと自然条件下の対照木2個体について土壌体積含水率,樹液流速度,2週間毎に採取した葉の窒素含有量と炭素安定同位体比を測定した.
年間を通して土壌を湿潤に保っていた散水木では,乾季に対照木よりは遅いものの完全落葉し,そのすぐ後に次の展葉が開始した.また,完全落葉前の短期間に樹液流速度が低下した.散水木では,乾季に入っても土壌が湿潤であるため気孔コンダクタンスは低下せず,乾季後半に上昇した大気飽差にも樹液流速度は反応しなかった.これらのことと固定カメラの写真画像から,散水木の乾季における樹液流速度の低下の主要因は落葉による葉面積の減少であると考えられた.一方,対照木では乾季に入ってすぐに樹液流速度が低下し,散水木よりも早く完全落葉した.この樹液流速度低下の主な要因は,土壌体積含水率と大気飽差に対する樹液流速度の反応および固定カメラの写真画像から,乾季前半は土壌水分量の低下に伴う気孔コンダクタンスの低下と落葉による葉面積の緩やかな減少,乾季後半は落葉による葉面積の急速な減少であることが示唆された.葉の窒素含有量は,対照木では乾季開始直後に低下し始めたのに対し,散水木では1ヶ月以上遅れて低下し始めた.これらのことから,葉の光合成能力は落葉前に低下すること,その時期は土壌水分量の低下により早められることが示唆された.