| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-436 (Poster presentation)
近年、温暖化対策を念頭に大気からのCO2隔離技術の確立が急がれている。その中で、バイオマスを嫌気的に熱分解したバイオチャーを森林生態系に投入し、炭素貯留量を増やす試みがなされている。しかし、野外での研究に必要な大規模な実験は困難で、投入の効果も不確定であった。そこで、本研究では室内でコナラ幼木をポットに植栽した単純な系を用い、バイオチャーが植物体、土壌、生態系それぞれの炭素収支に与える影響を明確にした。
土壌にコナラ幼木を植栽したポット (n = 5) と、土壌のみのポット (n = 5) を用意した。これらに異なる量のバイオチャー (0.0, 0.5, 2.0kg m-2) を散布し、人工気象室で約4か月間の培養を行った。この間に赤外線ガス分析器を用いて系からのCO2吸収・放出速度を測定し、植物純一次生産 (NPP) と従属栄養生物呼吸 (HR)、生態系純生産 (NEP) の変化を推定した。
NPPでは、バイオチャーの投入により一時的なCO2の放出傾向が認められたが、その後バイオマスと共に総光合成量 (GPP) が増加したことにより長期的な吸収傾向に変化した。一方HRは、投入から約一ヶ月間は放出量が増加し、その後は減少し最終的には対照群よりも低い値となった。これらが決定的な要因となり、複合的にNEPを一時的な放出傾向から長期的な吸収傾向に転じさせた。この変化は、バイオチャーの投入が生態系の炭素吸収能を長期的に向上させる可能性を強く示唆する。したがって、各要因が与える影響を量的に評価し、そのメカニズムを特定することが、温暖化対策を念頭にした実地のプロジェクトの実現に向け必要な検討課題であることが明確に示された。