| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-030 (Poster presentation)

青海チベット高原における長期研究:標高に着目した禁牧9年後の植生構造の変化

*西村貴皓(筑波大・生命環境),万銘海(筑波大・生命環境),廣田充(筑波大・生命環境系),下野綾子(東邦大・理),白石拓也(アイシーネット(株)),李英年(中科院・西北高原生物研究所),杜明遠(農環研・大気環境),唐艶鴻(国環研・生物生態系環境セ)

チベット高原の大部分を占める高山草原は主要な炭素の吸収源であるだけでなく,多くの植物種を有する多様性の宝庫でもある。しかし近年この高山草原では過放牧による草原の荒廃や多様性の低下が問題となっている。過放牧が草原に与える影響を評価するためには,非放牧下での植生構造の把握が不可欠である。そこで本研究では家畜の侵入できない禁牧区を設置し,その禁牧区および隣接する対照区をモニタリングすることで,放牧が草原の植生構造に及ぼす影響の解明を目的とした。

我々は夏期放牧地として利用されている中国青海省の海北草原の山岳斜面に広がる高山草原を対象に標高3600m,3800m,4000m,4200mの位置に禁牧区(20m x 5m)を2006年に設置した。そして各禁牧区と対照区にて,2015年8月に植生調査を行った。植生調査は円形の枠を用いたポイントフレーム法で行い,群落最上層の植物種と被度,草丈を記録した。

その結果,対照区の草丈は禁牧区の草丈の10%から40%ほどしかなく,放牧が地上部バイオマスを減少させることが明らかとなった。また,群落最上層の種数はどの標高においても禁牧区の方が多かった。対照区では標高が上がるにつれ種数が減少する一方,禁牧区では逆に増加する傾向にあった。さらに,機能群ごとにみると,禁牧区では高標高ほどイネ科型草本の被度が低下し広葉型が増加するのに対し,対照区ではイネ科型だけでなく広葉型の被度も低下しマメ科および多肉植物が顕著に増加していた。以上から,同じ夏期放牧地であっても,放牧が多様性および植生構造に及ぼす影響は標高によって異なる可能性が示唆された。


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