| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-037 (Poster presentation)

滋賀県竹生島におけるタブノキ林の回復過程 -カワウ営巣の効果に着目して-

*渡部俊太郎(滋賀県大・環境科学),稗田真也(滋賀県大院・環境科学),嶌田知帆(京都府立大院・生命環境),松井淳(奈良教育大),高田研一(森林再生支援センター),野間直彦(滋賀県大・環境科学)

カワウなどの鳥類の営巣は排泄物の増加に伴う土壌成分の改変やそれを通じた下層植生の種組成の改変、樹木の枯損などを通じて森林の景観や植生に大きく影響する。滋賀県竹生島では、最盛期におよそ58,000羽生息していたカワウの個体数が、個体数管理により現在ではおよそ3,000羽まで減少している。本研究では、こうした個体数減少が竹生島の森林の構造や植生に及ぼす影響を明らかにするため、2010年と2014年-2015年の2度の調査の結果を比較し考察する。

2010年に樹上営巣が行われていた場所と、下層植生に影響が強い地上営巣が行われていた場所に10m×10mの調査区をそれぞれ3つ設置し、区内の樹上営巣、地上営巣の数を調べた。また、区内の全ての木の胸高直径を計測し、個体の枯損度を5段階で評価したほか、各区内の4箇所で下層植生調査を行った。

調査の結果、樹上営巣区では2010年には合計17個見られていた巣がすべてなくなっていたほか、殆どの個体で枯損が見られなくなっており、枯死木の数も減少していた。地上営巣区でも、2010年には合計20個見られていた巣が全てなくなっていたほか、アカメガシワ、タラノキなどの先駆性樹種の幹数が大きく増加していた。下層植生については、樹上営巣区、地上営巣区ともに、2010年はヨウシュヤマゴボウとイタドリの優占度が高かったが、2015年はそれらの種の優占度が低下した一方、カモジグサやヤマハコベなどの草本の生育が新たに見られた。以上のことから、カワウの個体数減少により樹木の枯損度の回復、先駆性樹種の個体数増加、下層植生の種組成の変化が5年程の間で起こったことが明らかになった。


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