| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-045 (Poster presentation)

湿地生低木ヘビノボラズにおける生育段階間推移確率にもとづく個体群動態の特徴

山口久美子,鈴木一恵,安藤裕子,*肥後睦輝(岐阜大・地域)

ヘビノボラズは湧水湿地に固有の低木である。ヘビノボラズが湧水湿地でのどのように個体群を維持しているのかを知るためには、生活史の生育段階で個体数がどのように変化しているかを調べる必要がある。本研究の目的は、ヘビノボラズの開花、結果、落下種子、当年生実生、稚樹の各生育段階間での個体数の変化を推移確率として分析し、個体群維持機構について検討することである。

調査を行ったのは、岐阜県土岐市北部の北畑池湿地である。ヘビノボラズが比較的高い密度で生育する湿地中央部に調査区3か所を設置し調査を行った。各調査区で2006年から2008年まで当年生実生の発生と生存について調査した。さらに2008年には調査区内に生育する全てのヘビノボラズを対象として、4月下旬に開花数を10月には結果数を記録し、幹長を測定した。2008年秋には樹上からの果実持ち去り数、および地表での果実持ち去り数についても調査し、調査区ごとの光量子束密度の測定を実施した。

ヘビノボラズの結果率、当年生実生生存率、2年生実生生存率は平均値でみると36%、72%、68%であった。一方で結果数に対する当年生実生発生数の割合は約7%と推定され、他の生育段階の推移確率に比べて極端に低かった。ヘビノボラズの果実は大部分が樹上で持ち去られ、一部が地上に落下するものの、地表に落下した果実の大部分は動物に持ち去られてしまうことが、果実の成熟から当年生実生発生までの大幅な個体数の減少を引き起こしていることが明らかになった。以上の結果から、ヘビノボラズの個体数変動には結果後の果実の挙動が大きく関与しており、光環境によって変動する種子落下量あるいは落下後の生存確率がヘビノボラズの個体数変動を制御していることが示唆された。


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