| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-049 (Poster presentation)

ゲノム情報を利用した野生植物の適応力多様性評価

*久保田渉誠(日大・生物資源,東大・院・総合文化),岩崎貴也(京大・生態研),三浦憲人(ホシザキグリーン財団 ),永野惇(京大・生態研),花田耕介(九州工大,理研CSRS),松葉史紗子,宮下直(東大・院・農),彦坂幸毅(東北大・院・生命),伊藤元己(東大・院・総合文化),森長真一(日大・生物資源)

様々な中立的遺伝マーカーの発達により,ひとつの野生生物種に内包される多様性の理解は大きく進んだ。一方で,中立的遺伝マーカーが示す“多様性”は,種内の分集団がたどってきた歴史を反映するものであり,種が内包する適応力の多様性(高温耐性,乾燥耐性などが分集団間で異なること)を必ずしも反映するものではない。今後は地球規模での気候変動が予想されているが,そうした環境変化に野生生物がどのように応答するかを予測する上で,適応力の種内多様性を把握することは非常に重要と言える。

本研究はシロイヌナズナの近縁種であるハクサンハタザオを対象に全ゲノム解析を行い,単離される環境適応を担う遺伝子(適応遺伝子)の地理的分布情報をもとに,野生集団の適応力多様性を評価することを目標とした。まず,種の分布情報を用いた一般的なニッチモデリングを行ったところ,ハクサンハタザオの生育適地は温暖化にともない現在よりも高緯度・高標高に移動することが示された。次に,単離した適応遺伝子の対立遺伝子(祖先型または派生型)の分布情報をもとにニッチモデリングを行ったところ,祖先型と派生型の対立遺伝子間で適地が異なり,温暖化に対する応答にも差が生じることが示唆された。この結果は,同じ種であっても遺伝的構成によって適地や気候変動に対する応答が異なることを示しており,種内における適応力多様性を評価する上で重要な指標になり得ると考えられる。


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