| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-050 (Poster presentation)

クローナル植物モウソウチクを用いた低線量放射線の遺伝的影響評価

*兼子伸吾(福島大・理工), 松木悠(東北大・農),猪瀬礼璃菜(福島大・理工),陶山佳久(東北大・農),井鷺裕司(京都大・農)

原発事故の被災地域における毎時数マイクロシーベルト以下の放射線被ばくの蓄積が、そこに生育する植物の塩基配列の変異に与える影響についてはほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、日本各地に遺伝的に同一な個体が生育するモウソウチクを対象として、様々な放射線量の地域からサンプルを収集し、次世代シーケンサーから得られる大量の塩基配列データによって、生育地の空間線量と塩基配列の突然変異数との関係を評価した。

モウソウチクは、2013年に福島県のいわき市、大熊町、浪江町、南相馬市、相馬市、宮城県の白石市を含む全国14カ所から計94サンプルを採取した。サンプルを採取した地点の空間線量は、0.04~7.80μSv/hであった。これらのサンプルについて、モウソウチクで開発されたマイクロサテライトマーカーを用いたクローン解析を行い、同一クローンであることを確認した上で、次世代シーケンサーを用いたMIG-seqによる塩基配列の比較を行った。

その結果、2,718座については半数以上のサンプルでデータが得られた。これらのうち1,438座については、得られた配列は完全に一致していた。サンプル間で多型の認められた1,280座のうち、1サンプルにおいてのみ認められた変異、つまり、比較的最近生じた可能性の高い変異が確認されたのは442座であった。これらの座についてのサンプルあたりの変異数は0~13カ所であり、空間線量の増加に伴う変異量の増加は認められなかった。したがって、比較的空間線量が高い環境で生育しているモウソウチクであっても、事故後に塩基配列の突然変異を急激に蓄積しているということはないと考えられた。


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