| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-052 (Poster presentation)

3年間の調査データを用いたキンラン(Cephalanthera falcata)の空間明示的な個体群動態予測モデル

*富田基史, 阿部聖哉(電中研)

絶滅危惧種(国RDB:VU)であるキンランの個体群存続可能性分析(PVA)を行うため,個体群動態予測モデルの開発と現地調査データを用いたパラメータ推定を試みた.

群馬県前橋市の雑木林に60x40mの調査区を設置し,3年間,個体の位置・加入・生存・消失を追跡した.個体群動態に影響する環境要因として,上層木の樹種・位置・胸高直径を測定した.

モデルは,調査区を4mの小区画に分け,加入数・生存率を予測するものである.加入数は,小区画内の個体数に比例(近距離散布)する要素と全区画に一定(長距離散布)の要素の2つを考慮した.生存率は小区画近辺の上層木の影響を受けるものとした.パラメータは,非定常ポアソンと多項ロジスティックを組み合わせた階層ベイズモデルによって推定した.個体の発見率を考慮する(発見率<1)・しない(発見率=1)2つのモデルを試し,連続する2年・3年間のデータを用いた予測結果を比較した.

その結果,発見率を考慮した場合は加入数=0.00014/m2 (0.000050,0.00052)・生存率=0.84 (0.084,1.00)・発見率=0.69,考慮しない場合は加入数=0.042 (0.0060,0.28) / m2・生存率=0.33 (0.074,0.55)であった(3年間のデータによる推定結果).10年後の個体数を予測した結果,発見率を考慮したモデルは用いたデータの年度によらず予測値が安定していたのに対し,考慮しないモデルは推定に用いたデータの年度によって大きくばらついた.キンランは地上部を出さずに地下部で休眠するため,短期間の個体追跡データは,加入数の過大推定・生存率の過小推定・個体群動態予測モデルの不安定化につながる.個体の発見率を考慮することで,現実に近い推定値を得られる可能性が本結果から示唆された.


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