| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-058 (Poster presentation)

野外における分光測定の生態学的な意義

*久米篤(九州大・農), 秋津朋子・奈佐原顕郎(筑波大・生命環境)

植物は日射を光合成に利用すると同時に,複数種の光受容体によって特定波長の光量子を量子的に吸収して,直接的に遺伝子発現を制御している.そのため,植物の光環境を評価するためには総入射放射量だけでなく,UVから近赤外域までの環境中のハイパースペクトル情報が重要となる.そこで,直達・散乱分光放射計を試作し,日射の方向性別の強度とスペクトル変動特性,すなわち分光日射ダイナミクスの精密測定を実施した.

直達日射と散乱日射では光量子やエネルギー密度のスペクトル分布が大きく異なり,時刻や緯度,気象条件によって変動する一方で,全天日射における光合成有効放射(PAR)の比率は時間や場所による変動は小さく,PAR波長域内のスペクトル分布が大きく変動していた(Akitsu et al. 2015).赤色/近赤外波長は,日射の方向性に依存せずに,日中の時間帯の判定に利用可能である一方で,青色波長は,他波長との組み合わせで,散乱日射と直達日射の違いを感度良く検出でき,また,斜面方位によって入射スペクトル特性が異なることが示唆された.

光合成においては,葉緑体や葉の色素は日射の特定波長の放射を合理的に吸収・透過させていた.例えばβ-カロチンは,日射の量子/エネルギー比の低い青色域を選択的に遮断し,光量子密度の高い緑~赤色域の放射を選択的に透過するバンドパスフィルターとして効果的に機能していた.また,光化学系複合体や葉の吸収スペクトルは,直達日射の最大エネルギー波長域(450~650 nm)のエネルギー密度(分光放射照度)と反比例していた.光化学系複合体の高次構造は,直達日射のエネルギー密度の高い波長域(緑色域)を避けるように精密に構成されている一方で,葉全体では葉組織構造によって多重散乱・吸収を促進し,効果的にPAR波長全体を利用できることが明らかになった(Kume et al. inpress).


日本生態学会