| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-102 (Poster presentation)

種子から実生の呼吸スケーリング

*芳賀由晃 森茂太 (山形大農学部)

先駆樹種であるニセアカシアとネムノキの休眠種子は、環境条件が整うと一気に発芽し、他樹種よりも速く生長する。これは先駆樹種の生理的特徴であり、裸地などの不安定な環境に適応できる理由の1つである。さらに、休眠種子は吸水によって急激な代謝変化がおこると考えられる。しかし、これまで発芽率や実生動態など研究は多いが、種子から実生までの個体呼吸の研究はない。

そこで本研究では、先駆樹種の成長初期の特性を調べるため吸水種子から実生(双葉だけの実生)までの個体呼吸を実測した。材料には、種子サイズの異なるマメ科のニセアカシア33個体、ネムノキ28個体を用いた。測定に用いたそれぞれの生重量幅は25~203mg、69~301mg(吸水種子~実生)であり、休眠種子の平均重量は約26mgと約43mgであった。

両種の個体重量と呼吸速度の関係を比較、検討した。その結果、いずれの種も吸水種子から発根種子で急激な呼吸速度の上昇がみられた。しかし、両種の種子サイズに応じた吸水種子~実生の個体呼吸の変化が大きく異なっていた。種子のやや小さいニセアカシアでは重量当たり呼吸速度は発根まで急激に上昇した後、発芽とともに明確に低下した。一方で、種子のやや大きなネムノキでは吸水種子、発根種子、実生で低下することなく上昇し続けた。

吸水種子から発根種子の段階での個体呼吸速度の急激な上昇は、種子貯蔵炭素を基質にした急激な代謝変化を示している。これは死亡率が高い発芽初期に急速に成長し、周囲の環境に適応するためと考えられる。さらに、種子から発芽に至る成長初期の重量当たり呼吸速度の変化の違いがニセアカシアとネムノキで生じたことは、これらの生態学的な違いを示しているのだろう。


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