| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-122 (Poster presentation)

サワシロギク土壌生態型における発芽と成長の蛇紋岩適応

*西野貴子, 松田明莉, 川上敬弘(大阪府大・理・生物), 阪口翔太, 石川直子, 伊藤元己 (東大・院・総合文化)

蛇紋岩土壌は多量の重金属や貧栄養により植物にとってのストレスだが、そこに生育する蛇紋岩植物は独自の生理・生態的な形質を有するため適応的種分化の好例である。

日本全国の湿地に生育するサワシロギク Aster rugulosusには、蛇紋岩土壌に侵入し地下茎を失った集団があり、世代を経て生活史の分化が生じている。一方、蛇紋岩適応の生理的形質は蛇紋岩地帯への侵入時に保持されている必要があり、蛇紋岩耐性は湿地型で幅広く、蛇紋岩型では高い耐性を示すことが予想される。今回は、相互播種・移植実験により各生態型の成長を調べ、蛇紋岩特性の何が初期生長の制限要因になるかを明らかにした。

無処理土壌への相互播種は、蛇紋岩型Aがすべての土壌において発芽・生長がよく、生育地での生長の悪い蛇紋岩型B、および湿地型では、ほかの土壌と同じく蛇紋岩土壌でも同程度に発芽はするものの幼根が伸長せず、本葉を展開させたものは発芽個体の3割以下となった。土壌への養分添加、硬度の軟化、土壌の抽出液培地などのスクリーニングでも同様の結果だったことから、蛇紋岩土壌の水溶性物質が初期生長を抑制していることが明らかなった。そこで、蛇紋岩を特徴づけるNiを含む培地に播種したところ、湿地型は0.02 mMで、蛇紋岩型では0.06 mMで本葉展開率が大きく低下した。また、湿地型の蛇紋岩移植個体は半数しか生き残らず、どの個体も開花しなかったが、蛇紋岩型Aではすべての土壌で8割が生残し、開花も見られた。一方、蛇紋岩型Bは自生の蛇紋岩土壌で生残はするものの成長が悪く、開花はしなかった。以上から蛇紋岩土壌中のNiが初期生長を制限し、Ni耐性が高いものが蛇紋岩土壌へ侵入した後、地下茎喪失など繁殖特性が分化・固定したと考えられ、耐性の違いが蛇紋岩型集団の結実等の繁殖に影響している。


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