| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-138 (Poster presentation)

ゲノム情報と生理生化学的性状から捉える新規硫黄酸化細菌の生態像

*三浦彩, 渡邉友浩, 小島久弥, 福井学 (北大・低温研)

自然環境中に生息する硫黄酸化細菌は、系統群ごとに異なる多彩な性質を持つため、硫黄のみならず炭素、窒素、リン、鉄、ヒ素などの元素循環にも寄与することが知られている。しかし、その大部分は未培養であり、新たな培養株の獲得なくしてその生態系における役割を完全に把握することは不可能である。本研究では、硫化鉛(II)より偶発的に発見された新規硫黄酸化細菌を分離し、その諸性状を明らかにすることを目的とした。wk12株は、硫化鉛(II)を接種源とした好気条件の集積培養から限界希釈によって分離した。細胞のグラム染色の結果は陰性、形態は桿状であり運動性を示した。至適増殖は、温度28−32℃、pH 6.4−7.1、塩化ナトリウムを含まない条件で観察された。偏性独立栄養性で、二酸化炭素を唯一の炭素源として、電子受容体として酸素、電子供与体として硫化鉛、チオ硫酸およびテトラチオン酸を利用してエネルギーを獲得した。系統学的な位置付けを16S rRNA遺伝子配列に基づいて推定した結果、Acidithiobacillaceae科に属することが示された。本科は好酸性のAcidithiobacillus属と好熱性のThermithiobacillus属の2属から構成されており、wk12株はThermithiobacillus tepidariusの基準株と96%の配列相同性を示した。中温中性条件を好むというwk12株の特徴を考慮すると、本菌株はAcidithiobacillaceae科における新属を代表する細菌に相当すると考えられる。本発表では、wk12株のゲノムから得られた情報と生理生化学的性状を合わせてその生態を考察する。


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