| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-141 (Poster presentation)

雪氷圏におけるクラミドモナス科藻類の生物系統地理学

*田中優穂,村上正志,竹内望(千葉大・理)

雪氷藻類は、世界中の氷河や雪渓で観測されており、これらの藻類が蓄積する色素により氷河での太陽光の吸収が促進され、その融解が加速されていると考えられている。その為、地球温暖化等の気候変動以外の氷河融解の原因を解明する上で、雪氷藻類の多様性と分布のメカニズムを理解する事は重要である。既存研究では、雪氷藻類の中で赤雪と呼ばれるクラミドモナス科の2属 (Chlamydomonas, Chloromonas)を対象とした解析が行われ、シングルセルベースでのDNA解析によって、赤雪群集が広範な分布を持つ汎存種と、分布域の限られた固有種の両者から構成されているという結果が示されている。しかしながら、この結果は限られた解析個体から得られたものであり、サンプリング効果の結果である可能性を否定できない。

そこで本研究では、次世代シーケンサー(illumine, Miseq)を利用した大規模解析によって、赤雪群集の分散様式と多様性について理解する事を目的とした。サンプリング地域は日本国内15地点、海外4地点を対象とした。解析の結果、局所的な赤雪パッチは系統的に離れた複数種の移入により構成された「群集」であり、同一種を全球スケールで共有する事から、赤雪藻類種が広範な分散能力を持つ事が示された。一方、遺伝的距離と地理的距離の相関を求めたところ、赤雪群集に分散制限が存在する事が示された。そこで、種間での分散能力の違いを検討すると、局所的な優占種は地域、グローバルスケールでも優占種であり、分散能力が種間で異なることが示された。

以上の結果から、赤雪群集は全球で見られるコスモポリタン種と、局所のみに見られるエンデミック種の両方によって構成されている事が示された。さらに、コスモポリタン種においても、分散能力の異なる種が含まれ、それらの総体として赤雪群集が形成されていることが示された。


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