| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-143 (Poster presentation)

湖沼の好気環境に出現するメタン極大の形成プロセス

*岩田智也(山梨大・生命環境), 小林あい(山梨大・工), 内藤あずさ(山梨大・工), 小島久弥(北大・低温研)

湖沼から大気へのメタン放出量は,全球規模のメタン収支に大きく影響している.従来,湖沼から放出されるメタンは湖底付近の嫌気環境で生成したものと考えられてきた.しかし,我々は多くの湖において好気環境にメタン極大が出現することを明らかにしている.しかし,好気的メタン生成の機構とそれに関与する微生物は未だ明らかとはなっていない.そこで本研究では,制限栄養元素,代謝および基質が好気的メタン生成に及ぼす影響をバッチ培養により明らかにするとともに,浮遊性細菌群集の鉛直分布を定量化し、湖における好気的メタン生成に関与する微生物と代謝プロセスを特定することを目的とした.

山梨県西湖で実施した野外調査の結果から,湖では夏期において水温躍層近傍に巨大なメタン極大が出現することが明らかとなった.また,湖底や沿岸帯,大気からメタンが供給された痕跡はなく,現場にて好気性生物によりメタンが生成しているものと考えられた. また,MPnを添加した培養実験ではメタン濃度が大きく上昇した.この結果は,C−Pリアーゼによりホスホン酸のC−P結合が開裂し,メタンが生成していることを示唆している.このことから,湖沼の好気環境に出現するメタン極大も,C−Pリアーゼを有する微生物のMPn代謝によって形成されていると考えられた.

浮遊性細菌群集の鉛直分布を見ると,C−Pリアーゼを有するSynechococcusの細胞密度が,メタン濃度の鉛直プロファイルに一致していた.また,細胞密度の季節変化はメタン濃度の季節消長によく一致しており,Synechococcusによる有機リン代謝が好気環境のメタン極大の形成に関与している可能性がきわめて高いと考えられた.


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