| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-173 (Poster presentation)

大雨による斜面崩壊の跡地における冷温帯林構成樹種の更新初期過程

*野口麻穂子(森林総研東北), 杉田久志(森林総研四国), 岡本隆(森林総研東北), 高橋利彦(木工舎ゆい), 篠宮佳樹(森林総研東北)

斜面崩壊は、降水量の多いわが国において主要な自然攪乱のひとつであり、森林の種多様性の維持に重要な役割を果たす可能性が指摘されているが、攪乱直後の森林の反応に関する知見は限られている。本研究では、斜面崩壊が発生した直後の攪乱跡地における冷温帯林構成樹種の更新初期過程を明らかにすることを目的とした。2013年8月の記録的な大雨によって複数の斜面崩壊が発生した岩手県内の山地小流域において、崩壊土量が70~200m3の3か所の崩壊跡地、および隣接する未攪乱の林床に調査区を設置し、落下種子量と樹木実生の定着・生存の観測を行なった。

斜面崩壊発生直後の2013年秋季に落下した健全種子の密度は、ブナでもっとも高く、サワグルミがこれに続いた。2014年生の実生は、林冠構成種の多くで林床より崩壊跡地に有意に偏って発生した。種子サイズの小さいスギとウダイカンバでは、実生の発生は崩壊跡地にほぼ限られ、翌春以降の生残がみられたのは崩壊跡地のみであった。一方、崩壊跡地においてもっとも実生の密度が高かった樹種はサワグルミであり、林冠構成種の実生の総数の60%以上を占めた。また、崩壊跡地におけるサワグルミ実生の2015年10月までの生存率は林床と比較して有意に高く、林冠構成種中もっとも高い値を示した。本研究で対象とした斜面崩壊は、攪乱の発生から2生育期間を経過した時点で、攪乱直後の種子の供給が比較的多く、かつ崩壊跡地において高い実生の発生率と生存率を示したサワグルミの更新に、もっとも有利に働いていると考えられた。


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