| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-195 (Poster presentation)

樹木の葉の糖濃度と葉食動物の嗜好性

*伊藤睦実,林文男(首都大・生命)

東京西部の山林に生息するムササビ(Petaurista leucogenys)は、春から夏にかけてクヌギの葉をよく食べるが、その時に葉の周縁部を避けるように葉に丸く穴を空けて食べることが知られている。この特徴的な食べ方について、一般的に葉の防御物質であるフェノール類が関与しているのではないかと考え、一枚の葉における総フェノール濃度の分布を調べた。その結果、総フェノール濃度(乾燥葉重量あたりのgallic acid換算値)は葉の周縁部で高く、中央部で低くなっている傾向があった。そのため、ムササビは総フェノール含量の高い葉の周縁部を避けて食べるのではないかと考えられた。一方、哺乳類では一般に甘い餌を好んで食べることが知られている。そこで本研究では、一枚のクヌギの葉における糖濃度の分布を季節ごとに調べた。葉に含まれる糖分の測定には、ブドウ糖測定器を用いてブドウ糖濃度(乾燥葉重量あたりのブドウ糖量)を測定した。その結果、一枚の葉では糖濃度の分布に差はなく、糖分はほぼ一様に分布していた。また、糖分濃度の明確な季節変化も見られなかった。つまり、ムササビが葉の中央部を食べることに関してブドウ糖濃度は影響を与えていないと考えられた。さらに一枚の葉における水分含量(含水率%)の分布を調べた結果、葉の中央部で高く、周縁部で低くなっていた。水分含量は、総フェノール濃度と同様にムササビの葉の中央部を食べるという嗜好性に影響している可能性がある。今後、色々な樹種で総フェノール濃度、ブドウ糖濃度、水分含量を比較してムササビの餌の樹種選択との関係を調べる必要がある。


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