| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-222 (Poster presentation)

潮下帯最上部の生物多様性に対する転石の貢献度

*井坂友一(北大・FSC), 仲岡雅裕(北大・厚岸)

海藻類は潮間帯から潮下帯水深数十メートルまで,様々な種が幅広く生育している.海洋生態系において海藻類は,例えばコンブ林のように,魚類や海洋無脊椎動物などにハビタットを提供する生態系エンジニアとして機能することで,そこに生息する海洋生物相の高い種多様性に貢献していることが知られている.沿岸海洋生態系において,潮下帯最上部は波浪をはじめとする物理的要因の影響を受けやすい環境のひとつである.潮下帯最上部に存在する転石は,波浪の影響によって移動するが,移動が少ないものには海藻類が発育すると考えられる.一方,移動しやすい転石では,移動する過程でその表面に付着した海藻が部分的・定期的に潰されることや脱落する機会が多いと考えられる.

本研究では,波浪によって移動する転石とそれに付着する海藻類が潮下帯最上部における生物多様性へ貢献している程度を明らかにするために,(1)潮下帯最上部における転石の重さと付着海藻類の被度との関係,(2)付着海藻類の被度と海洋無脊椎動物(特に節足動物,主にヨコエビ類)の個体数の関係及び(3)形態によって分類した海藻の構造と海洋無脊椎動物の個体数の関係について,一般化線形モデルを用いて解析を行った.その結果,転石の重さと海藻被度の間には相関が無いこと,転石上の海藻類の被度,特にピリヒバのような高密度で生育する海藻類の被度が,節足動物類の個体数に影響を与えていることが明らかになった.これらのことは転石に付着する海藻類への撹乱の規模が転石の重さと無関係であること,転石表面に高密度で生育する海藻類が存在することで生み出される微小空間が,潮下帯最上部の節足動物類にとってのハビタットのひとつとなっている可能性を示唆している.


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