| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-232 (Poster presentation)

斜面土砂移動地の未知なる地中生節足動物相:多様性と生息地特異性

*小粥隆弘, 長澤亮, 田中健太(筑波大・菅平セ)

地殻プレートの交差点に位置する日本は、世界的にも活発な斜面土砂移動(以下、崩壊)が生じている。中部山岳地域の4山域を対象に、1山域あたり4~8か所の崩壊地(計28調査地)の動物相調査を行ったところ、崩壊地地下から膨大な未記載種を発見し、その内コウチュウ目2種を新種記載した。本研究では、節足動物の群集組成と多様性に対する、山域・崩壊・深度の効果を明らかにすることを目的とした。

解析には定量的な調査を行った1山域あたり2~3か所の崩壊地(計11調査地)のデータを用いた。各調査地の崩壊地内に3~6穴、対照区として崩壊地外の森林に3穴を設け、各穴の深度0・25・50 cmに各1個の誘引性トラップを設置した(計258トラップ)。トラップは2014年8~10月に設置し、約1か月後に回収した。採集した全動物7865個体を目まで、トビムシ目・ハエ目を除いた主要な分類群3380個体を科・属・種まで可能な限り同定した(計19目・32科・106種)。

重回帰分析の結果、崩壊地内のほうが、全動物の個体数・目数が大きかった。土壌深層は科数・種数が小さいが、崩壊地内の土壌深層は対照区の土壌深層よりも多様性が高かった。眼や体色が退化した地中生形態種の個体数は、崩壊地内の土壌深層に多く、このことが崩壊地地下の高い多様性に寄与していた。また、土砂粒径が大きいほど、全動物の個体数・目数、地中形態種のほとんどの種で個体数が多かった。群集組成を従属変数とした多変量解析では、深度・山域・崩壊有無によって群集組成が変化すること、山域間の群集組成の違いが崩壊地内のほうが顕著であることから崩壊地群集の地域固有性が高いことが分かった。さらに指標種分析によって、1/3以上の目・科、過半数の種が崩壊地内に依存していることが分かった。以上より、崩壊が地域の節足動物の多様性に大きく貢献していることが明らかとなった。


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