| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-237 (Poster presentation)

極相林では、鳥の種数は多いか少ないか?―和歌山県における鳥類相の林相間比較

岩本二郎(和歌山県立自然博物館)

和歌山県立自然博物館では2015年に県内の合計22箇所において、森林性鳥類のセンサスを繁殖期と越冬期の両方に実施した。調査地は県立自然公園の指定を受けた地域を中心に、県の北部・中部・南部の全てが含まれ、さらに標高も、海に面した場所から海抜1372mまで勾配が出るように設定した。

調査の結果、合計31科63種(越冬季48種、繁殖期46種)を確認し、常緑広葉樹の天然林では、越冬期に比べて繁殖期の方が、記録できた種数が少ないという傾向が見られた。それに対し、繁殖期の方が種数が多くなっていたのは、標高の高い地域や、県北部に多かった。これらは標高の高い地域が落葉広葉樹林に覆われていることや、県北部の平野部周辺では、かつては「里山」として利用された薪炭林(落葉広葉樹林)が広がっていることが関係していると考えられた。

常緑広葉樹林では、留鳥の占める割合が多くて渡り鳥や漂鳥が少なく、その傾向は、越冬期から繁殖期になっても変わらなかった。それに対し、落葉広葉樹林では、繁殖期になると渡り鳥の占める割合が増加し、越冬期に比べて種数が増加していた。また、薪炭林においては、林縁性の種や、森林管理や耕作が行われなくなったことによって近年減少してきているような種なども加わり、種数が多くなっていた。

これらの結果から、繁殖期における森林性鳥類の種数は、生息地における落葉の有無や攪乱と関係があり、常緑広葉樹林では極相林であっても、繁殖期になっても種数が越冬期より多くならないのに対し、落葉広葉樹林の場合には、葉が茂って繁殖期を迎えると、渡り鳥や漂鳥によって、種数が大きく増加することが示された。そして、常緑広葉樹林が極相となるような地域では、里山管理のような撹乱により落葉広葉樹林の混じることが、繁殖期の種数を増加させる要因になっていると考えられた。


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