| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-264 (Poster presentation)

地球温暖化とそれに伴う湖底の貧酸素化が琵琶湖深水層のベントス群集に与える影響の評価

*酒井陽一郎(琵環研セ),小板橋忠俊(京大生態研),柴田淳也(広島大学),岡野淳一(京大生態研),谷内茂雄(京大生態研),中野伸一(京大生態研),奥田昇(総合地球研)

淡水生態系では生息地破壊や富栄養化,外来種の移入,地球温暖化といった人為的な要因により,生物多様性の低下が急速に進んでいる.深い湖沼では,富栄養化と温暖化によって湖の冬季循環不全が生じ,それに起因する湖底の貧酸素化の進行が懸念されているが,湖底の貧酸素化が生物群集に与える影響は明らかではない.そこで本研究では,京都大学生態学研究センターが1965年から2011年まで定量採集したベントス群集の長期データおよび物理・化学環境観測データを用いて,温暖化と貧酸素化が深水層のベントス群集構造に与える影響について解析した.

調査期間を通じ,3種の琵琶湖固有種を含む32分類群のベントスが出現し,各分類群の個体数は大きな年変動を示した.湖底の水温が上昇する1980年代後半以降,ミズミミズの1種であるTubifex sp.が急増して優占した.また,2000年代以降に初めて出現する種も複数存在した.非計量多次元尺度法による群集解析の結果、1985年および2002年にベントス群集構造の顕著な変化が検出された.温暖化の指標である湖底の年最高水温と,湖底の貧酸素化の指標である底泥直上1mの溶存酸素濃度を環境変数に組み込んだ冗長性解析では,両変数とも湖底のベントス群集の変化を有意に説明できた.1980年代の環境変化によって増加したTubifex sp.は富栄養化湖沼の底泥中に生息すること,2000年代以降に増加した種はビワオオウズムシやミズムシなど底泥表面に生息する種や,過栄養湖沼の底泥中に生息するユリミミズ属の種が含まれていることから,湖底の貧酸素化が底泥内から深水層へと移行しつつあり,温暖化がベントス群集の組成に及ぼす長期的な影響が示唆された.


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