| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-280 (Poster presentation)
国内においてサキグロタマツメタは西日本の一部にのみ生息する希少な巻貝であったが、現在では本来の生息地でない太平洋岸の多くの地域に出現している。これらの集団はアサリ輸入に伴い大陸から運ばれた個体が分布を拡大したものと考えられている。侵入集団によるアサリへの食害は漁業への深刻な悪影響をもたらしてきた。これらの集団の個体を用いた遺伝子解析を行い、その由来や移動の様子などを探った。
各地の集団でミトコンドリアCOI遺伝子の配列を調べたところ、いずれも大陸の個体に近い遺伝子型であった。特に朝鮮半島の個体が持つ遺伝子型は侵入集団と非常に近いまたは一致するものであった。各地の侵入集団が持つミトコンドリアCOI遺伝子型は、多くの集団で共通するものも存在するが、優占する遺伝子型は各集団で異なっていた。異なる原産地からのアサリ輸送に伴ったサキグロタマツメタの人為的な移動の様子が、各地の遺伝子型の違いとして反映されたと考えられる。一方で、ごく近隣どうしで遺伝子型の構成が類似するのは自然移動も限定的ながら起きていることを示唆している。
東日本大震災による津波の被害を受けた地点では震災前後で同じ遺伝子型が優占しており、震災後も以前からの集団が存続していると考えられる。しかし少数の遺伝子型には震災前後での入れ替わりも見られ、津波により外部との交流や個体数の減少といった影響も起きていた可能性も示唆された。