| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-286 (Poster presentation)
ニホンジカ(Cervus nippon、以下シカ)の生息密度モニタリング手法は、日本国内でも地域により異なる。照葉樹林が優占し、見通しが悪い西日本では糞塊・糞粒調査が採用され、落葉広葉樹が多く分布する東日本ではカウント調査(スポットライト調査)が主流である。一方、林道分布に囚われないカメラトラップ調査も新しい密度指標として注目されている。同じ指標の経年変化はシカの長期的動態を示し、その地域のシカ管理に貢献してきたが、用いる指標が異なる地域間での密度比較はほとんどなされていない。シカ管理を取り巻く状況の変化から、既存手法の欠点を補う新手法の追加や乗り換えも各地で検討されているが、複数の手法を同所・同時期に適用し、得られた指標間の関連性や互換性を検討した研究例は未だ少ない。
本調査では、富士山北麓の林道(延長約24 km)を対象に、カウント調査、糞塊調査、カメラトラップ調査を同時期に実施した。まず、林道を2 kmごとに区切った12区間の林道沿い林内にそれぞれ調査区(10 m×20 m)を1ヶ所、計12ヶ所設置した。5月、7月、9月、11月にそれぞれ2夜ずつ、全区間でカウント調査を実施した。並行してカウント調査を含む2週間、各調査区でカメラトラップ調査を行い、また調査区に発見された新規シカ糞塊数を記録した。4時期の結果をプールすると、目撃数、糞塊数、撮影数の3指標の相関は弱かった。時期別では、9月の糞塊数と撮影数(F = 6.17, P = 0.03)、11月の目撃数と撮影数(F = 6.03, P = 0.03)に有意な相関関係が見られたのみであった。シカ密度が極めて低いか、極めて高い場合、複数の密度指標はおのずと相関するが、中間的な密度では指標間で必ずしも相関が見られないことが示唆された。