| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-292 (Poster presentation)
屋久島西部の海岸域には照葉樹林が大面積で残っており、世界遺産にも登録されている。しかし、この地域の多くは、針葉樹の植林は少ないものの、薪炭林や樟脳用のクスノキ林として、人が利用してきた森である。そのため、二次林の要素が強い森である。最近、この地域ではニホンジカが極めて高密度になり、生態系への影響が懸念されている。
そこで、西部地域の林道から離れ、人為的な攪乱がほとんどないと思われる一時林で、哺乳類の調査を行い、西部林道周辺の二次林と比較した。いずれの場所も、動物の捕獲は、20年以上、行われていない。調査地は、「半山中標高域」(西部地域の北、標高約400-550m)と「瀬切川右岸中標高域」(西部地域の南、標高約450-600m)である。いずれも、イスノキが優先する暗い一次林である。ここにカメラトラップを各20台設置し、ニホンジカやニホンザル等の動物を撮影した。
ニホンジカは、「半山中標高域」「瀬切川右岸中標高域」共に、低地林の1/5~1/10程度の撮影頻度だった。「半山中標高域」で、ニホンザルの撮影頻度が最も低く、低地林の1/5~1/10程度の撮影頻度であった。しかし、「瀬切川右岸中標高域」は、低地の森と同程度の撮影頻度であった。
林床の草本への依存度が高いニホンジカでは、暗い一次林では密度が低下する可能性がある。これに対して、ニホンザルでは一次林の中でも、生息密度に変異がある可能性がある。ニホンジカの高密度化が屋久島でも問題になっているが、一次林では、二次林ほどには高密度化しない可能性がある。今後、一次林でも密度が増加する可能性もあるため、継続的な観察が必要であるが、もし、二次林で顕著に高密度化するのであれば、そのような場所での対策を優先すると共に、二次林のようなシカが高密度化しやすい環境を新たに作らないことが必要かもしれない。