| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-295 (Poster presentation)

北米西海岸の外来ホソウミニナ個体群の移入経路

*伊藤萌(東大大気海洋研),三浦収(高知大総合研究セ),小島茂明(東大大気海洋研)

現在見られる生物の分布域および遺伝的地理構造には、その生物の分散能力や過去の環境変動が大きく影響している。それに加えて、人間の商業活動に関連した非意図的輸送も大きく影響を与えることが様々な種で報告されている。日本各地の沿岸域にて多産する巻貝ホソウミニナBatillaria attramentaria(= B. cumingi)では、20世紀の初頭から始まったマガキ(Crassostrea gigas)の輸出に伴い、北米西海岸へと移入したことが知られている。北米へ移入したホソウミニナは現在まで個体群を維持・拡大しており、現地の生態系への影響が報告されている。また、近年では、今まで確認されていなかったサンフランシスコ湾でも数を増してきている。浮遊幼生期を持たない直達発生で、分散能力が低いと考えられるホソウミニナのサンフランシスコ湾への移入経路は未だ不明である。ホソウミニナの、北米西海岸での遺伝的多様性の把握や個体群間の遺伝的交流状況といった知見は、現地の生態系保全に有用であることが期待される。本研究では、北米西海岸6地点の個体群から採集されたホソウミニナについて、ミトコンドリアCOI遺伝子の部分塩基配列(1020塩基対)および、核DNA上に存在する14のマイクロサテライト遺伝子座の多型に基づいた解析をおこなった。また、日本各地の個体群と遺伝的構造の比較をおこなった。遺伝子解析の結果、過去の研究で報告されている東北地方太平洋岸の個体群に加えて、関東地方の個体群が北米西海岸への移入元個体群として示唆された。関東地方でも北米輸出用マガキ種苗を生産していたことから、北米西海岸のホソウミニナ個体群は、日本国内複数地点からのマガキ種苗に紛れて非意図的に移入した個体に由来することが明らかとなった。


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