| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-296 (Poster presentation)
多くの種から構成される複雑な群集の安定性を理解することは、群集生態学における主要な課題の一つである。この課題に対する有効なアプローチとして、群集構造の特徴的な部分的構造(モジュール)に着目し、その振る舞いを解析するアプローチが挙げられる。その中で、カップリングされた捕食者-被食者系(Coupled predator-prey system: CPPS)は、自然界の食物網の中で一般的にみられる構造の一つである。このCPPSに関する過去の理論的・実験的研究では、複雑な個体群密度の振動が現れることが報告されている。これらの研究では、多くの場合、種間競争が対称であるという前提を置いている。しかしながら、自然界では非対称的な競争が一般的である。また、CPPSと類似した構造をもつ食物網に関する研究においては、その最上位捕食者の非対称な捕食による結合構造が食物網の安定化に寄与することが示されている。そのため、競争の非対称性がCPPSの安定性に与える影響を調べることは、一般的な食物網の安定性を理解する上でも重要であると考えられる。そこで、本研究では数理モデルを用いて、競争の非対称性がCPPSの安定性に及ぼす影響を解析した。その結果、競争が極端に非対称な場合は種の絶滅を招くものの、ある条件の下では、競争がある程度非対称な場合の方が対称な場合に比べてCPPSはより安定化することが明らかとなった。この結果は、被食者間の競争が非対称的になることで共存が促進されるということを示している。この競争の非対称になることで安定化するメカニズムは、競争的に優位な種が常に劣勢な種を抑え込むことにより、個体群密度の変動が小さくなるためであると考えられる。