| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-329 (Poster presentation)

密漁されたボルネオバンテンの歯髄から完全長ミトコンドリアDNAの決定

*石毛太一郎(東農大ゲノム),覚張隆史(金沢大学・人間社会),半澤惠(東農大・農),松林尚志(東農大・農)

バンテン(Bos javanicus)は、絶滅が危惧されている野生ウシである。東南アジア大陸、ジャワ島、そしてボルネオ島に分布し、各々はビルマバンテン(B.j.birmanicus)、ジャワバンテン(B.j.javanicus)、ボルネオバンテン(B.j.lowi)の3亜種に分類されている。ボルネオバンテンは、他の亜種と比較して形態的な違いが指摘されていたが、家畜ウシとの交雑が懸念されるに留まり、遺伝情報は皆無であった。これまで我々は、糞由来のMtDNAのcytchrome bおよびD-loopの一部配列を解析し家畜ウシとの交雑の可能性が低いこと、他のバンテン亜種よりも別種のガウル(Bos gaurus)に近縁であることを示したものの、情報量が少ないという問題があった。そこで今回、我々は歯髄由来のMtDNA全配列を決定したので、その結果について報告する。

2010年にマレーシア・サバ州で密猟、放棄されたボルネオバンテンの成熟雄頭骨の歯髄からゲノムDNAを抽出し、次世代シーケンサーHiSeq 2000を用いて解析した。de novo assemblyの結果、108,963個のコンティグが得られた。得られたコンティグに対し、ガウルのMtDNAをリファレンスにBLAST解析したところ、16,372bp(×61.59)のボルネオバンテンのMtDNAを同定した。最尤法系統解析の結果は、先の我々の結果を支持するものであった。ベイズ法で分岐年代を推定したところ、ボルネオバンテンとガウルは503万年前に分岐したことが推定された。

以上、対象としたボルネオバンテンは純血種かつ独立種である可能性がこれまで以上に強くなったことから、早急に保全対策に取り組むこと、核ゲノム情報も考慮して分類を再検討することが必要である。


日本生態学会