| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-342 (Poster presentation)

タコノキの遺伝構造からみる小笠原群島と硫黄列島の関係

*鈴木節子, 須貝杏子(森林総研), 加藤英寿(首都大・牧野), 吉丸博志(森林総研)

小笠原諸島は、過去に大陸と地続きになったことのない海洋島で、聟島・父島・母島列島からなる小笠原群島と、硫黄列島、西之島、南鳥島、沖ノ鳥島からなる。硫黄列島は母島から250kmほど南南西に、北から北硫黄島、硫黄島、南硫黄島の順に各々70km離れて分布し、1-78万年前に陸化したと推定されている。それに対し、小笠原群島は北から聟島・父島・母島列島の順に各々40km離れて分布し、2300-3800万年前には陸化したとされる。硫黄列島は小笠原群島と比べ、非常に若い島で構成されるため、小笠原諸島に分布する生物の祖先種の多くは、小笠原群島に定着後、硫黄列島に分布を広げたと考えられる。タコノキは小笠原諸島の固有種で、小笠原群島、硫黄列島のいずれにも分布し、種子は浮力があり海流散布される。よって本種はその遺伝構造から小笠原群島と硫黄列島の関係を探るための良い材料と言える。

聟島列島、父島列島、母島列島、硫黄列島の19島33集団942個体のタコノキについて核マイクロサテライト解析を行った結果、硫黄列島の集団は小笠原群島の集団との間で大きな遺伝的分化が生じていることが示された。小笠原群島から種子が海流によって硫黄列島に運ばれ定着した後、地理的な隔離のために遺伝子流動が制限され遺伝的に分化したのだろう。硫黄列島内の南硫黄島と北硫黄島の集団の間には有意な遺伝的分化は生じていなかったのに対し、小笠原群島内では列島ごとに遺伝的分化が生じていた。島間の地理的距離がより長い硫黄列島内で分化が生じていなかったのは、硫黄列島の変異が列島内に広まってから十分な時間が経過していないためだろう。また、硫黄列島は小笠原群島と比べて遺伝的多様性が低く、創始者効果の影響だと考えられた。


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