| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-347 (Poster presentation)
近年、広域データに基づく保全対象地の選定などの必要性から、基礎となるデータの重要性が増している。日本の湖沼の水生植物についてはデータベース(Nishihiro et al. 2014, Ecol.Res.29)が整備され、近年の情報の不足傾向が指摘された。本研究では、最新の情報を充実させる試みとして、現状確認のための現地調査を行い、文献情報との比較を行った。
現地調査の調査対象種は沈水・浮葉・浮遊および一部の両生植物を含む維管束植物とし、十和田湖(青森・秋田県)、芦ノ湖(神奈川県)、海老ヶ池(徳島県)で現地調査を行った。調査方法は湖岸を踏査するとともに、アンカーを投擲して水中を探索した。文献調査では、Nishihiro et al. (2014)に収録済みの文献に加え、新たな文献を追加した。
現地踏査の結果、十和田湖では既存の文献記録とほぼ一致する11種が確認され、このうちヒメホタルイは50年ぶりに記録された。また、新たに外来種であるコカナダモの侵入が確認された。芦ノ湖では沈水植物12種を確認したが、文献記録での総記録数との間には大きな差異があった。この差異の少なくとも一部は、誤同定の蓄積による総記録種数の過大評価の影響が疑われた。海老ヶ池では沈水・浮葉・浮遊植物4種を確認したが、これらは過去に記録された2種とは重複しておらず、種組成が全く異なっていた。湖沼間で文献情報と現地調査結果の整合性の程度は異なるものの、全体的には現地調査による情報更新の必要性が認められた。現地調査で得られた試料は、必ずしも外部形態での同定に十分な形質がそろっておらず、同定を保留せざるを得ないものがあった。誤同定による後の混乱を防ぎ、広域的な解析に適用可能な情報精度を保証するためには、不完全な情報の取り扱いに対するルール作りや、不完全な試料の同定を可能とする手法の適用が必要である。