| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-353 (Poster presentation)

耕作放棄水田におけるカスミサンショウウオ保全の取り組み

*藤田 宏之/埼玉県立川の博物館・兵庫・水辺ネットワーク,安井 幸男/兵庫・水辺ネットワーク,大嶋 範行/兵庫・水辺ネットワーク,江川 由紀子/兵庫・水辺ネットワーク

カスミサンショウウオは愛知県以西の本州、四国、九州などに分布しているが、兵庫県では神戸市や播磨地方など広域に生息している。近年減少が著しいとされ、地方版レッドデータブックでは、兵庫県、神戸市双方ともBランクとなっている。

2001年神戸市北区の国営明石海峡公園予定地の水田にて本種の生息が確認された。しかし、公園造成に伴い耕作放棄され、産卵環境の維持が困難と考えられた。2002年より市民調査グループが中心となり、本種のモニタリング調査と併せて保全の取り組みを現在も継続的におこなっている。高等学校生物部の参加、市民向けの観察会の実施など広がりをみせている。

保全の取り組みは大きく分けてふたつ実施した。まず、本種の産卵に利用される水路は、土砂の流入と渇水による水位低下が発生する年があり、浚渫と水漏防止の作業を実施した。結果、毎年継続して産卵がおこなわれ、増加傾向にあることから一定の効果があったと考えられる。

次に、水路内では希少種ニホンアカガエルの産卵も確認されているが、天敵のアメリカザリガニが高密度で確認され、防除を実施した。ところが、水源のため池から新たな個体の流入は避けられず、著しい高密度状態は脱したが、根絶には至っていない。しかし、継続的な防除によって大型個体は見られなくなり、効果があったと推測される。

同所における本種の産卵環境は、人の手による継続的な取り組みによって維持され、10年あまりの経験やデータの蓄積により、理想的な環境創出への取り組みにつながっていると考える。また、観察会実施による神戸市民への還元や、高等学校生物部の活動との連携という教育的な面でも意義深いと考え、継続的に取り組める体制を担っていく人材の結集が重要である。


日本生態学会