| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-364 (Poster presentation)
東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた津波や地盤沈下によって,沿岸域では甚大な被害を受け,海岸部の砂浜植生や防潮林にも多大な影響を与えた。発災から5年が経ち,岩手県内でも防潮堤の工事が急ピッチで進んでいる。
発災後の岩手県の海浜の海浜植物の植物相を研究(島田ほか2014)によれば,岩手県の海浜のうち,種の供給源となる多くの海浜植物を有している海浜は18ヶ所と少ない。これらの海浜においても復旧工事が行われる場所も多く,供給源となる海浜が減少する恐れがあり,その保全対策が必要である。
岩手県内の幾つかの海浜において砂浜植生の保全対策が講じられている。筆者らが関わった事例である野田村十府ヶ浦と山田町船越について紹介する。
野田村十府ヶ浦は,砂浜の全長が約2kmと残存している砂浜の中では岩手県内最大級であり,多くの海浜植物を有している。海浜植物は南北端のみにみられ,南端の米田地区は長さ250mほどであり,工事後は工事前と同様の砂浜が再生される計画となっている。山田町船越は,砂浜の全長が600mと小さな砂浜であったが,発災後に300mと面積が減少した。海浜植物は比較的多く,岩手県南部では数少ない海浜植物の豊富な砂浜である。工事によって砂浜の幅が防潮堤によって10m程度減少し,幅15m程度になる予定である。いずれの海岸でも,防潮堤のかさ上げに伴い,海浜植生群落がみられる場所は工事用地として利用されるため,ほぼ消失することになった。
そこでいずれの砂浜においても,①現地保全区の設置,②根茎や種子を含んだ表土の移植と工事終了後の再移植,③種子や根茎による苗づくりと工事終了後の移植,④種子を保存し工事終了後に砂浜に播きだしを行うことで,海浜性種の保全を行うことになった。船越においては,さらに砂浜の全面に砂の移動(養浜)も予定している。発表ではこれらの事例について詳しく紹介する。