| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-365 (Poster presentation)
本発表では多摩川における橋梁建設とカワラノギクのミティゲーションに当たり、市民、行政、行政の委託先のコンサルタント、研究者の協働について検討する。
多摩川では1990年ごろから橋梁の架け替えと新設が盛んに行われるようになった。1990年代初めの府中四谷橋の建設ではカワラノギクが全滅した。2015年から府中四谷橋の下流側に位置する関戸橋の架け替え工事が16年間をかけて行われようとしている。関戸橋の上流側の中州にはカワラノギクが生育していた。このカワラノギクは市民が研究者が保存していた府中四谷橋の個体群の種子を自宅で増殖したのち播種することによって成立した個体群である。
カワラノギクは一回繁殖型の多年草であるため、種子を採取して移植する計画が委託先と行政によって練られていた。計画には重要な2点について欠けていた。⑴最終的な目標、⑵移植作業の成果の評価。
最終的な目標は橋梁の建設者は東京都であり、河川管理者は国土交通省であるために、現状を変更しないこととされた。変動する河川環境の下で、最終的な目標を持ち、それに見合った計画を立てるべきであろう。
移植作業の成果を評価するには、種子を計数して播種し、実生の定着数を数え、抽苔個体を数え、開花結実個体を数えることが必要である。この作業は東京都と委託先の契約には含まれていなかったので、委託先のコンサルタントによって2016年1月に集められた種子を計数している。また、種子が風で移動すると、実生の定着率を計数できないために、冠毛を除去する作業が必要だったので、これも研究者が行った。
ミティゲーションに当たって生態学の研究的な意義があるようにすることは、労力がかかり容易ではないものの、事業と研究を結び付けるために必要である。その工夫について紹介する。