| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-373 (Poster presentation)

東日本大震災に伴う津波は干潟の巻貝にどのような影響を与えたのか?

*三浦収(高知大・総合), 金谷弦(国環研), 中井静子(日大・生物資源), 伊藤萌(東大・海洋研), 牧野渡(東北大・生命), 占部城太郎(東北大・生命)

津波を始めとする自然災害は、生物集団の遺伝的構成に甚大な影響を与える可能性がある。東日本大震災に起因する大津波は東北沿岸に生息する様々な生物に劇的な被害をもたらした。干潟に多く見られるホソウミニナも、津波により個体数を大きく減らした生物の一つである。私たちの研究グループは、約10年間に渡りホソウミニナの密度・サイズ・そして集団遺伝学的な指数の変化を追うことで、津波が、仙台湾のホソウミニナの集団に生態学的・遺伝学的にどのような影響を与えたのかを調査した。その結果、ホソウミニナの密度は、津波直後に地域集団の消滅が危惧される程に激減していた。津波から2年後の2013年からは小型のホソウミニナの稚貝が観察された。また、多くの調査地点で稚貝の出現に起因する平均サイズの低下が見られた。遺伝的情報を基にした集団帰属検定の結果、これらのホソウミニナの稚貝は、それぞれの調査地点での生き残り個体の子孫であることが明らかとなった。各地点において、津波の前後で遺伝的多様性を比較したところ、予想に反して遺伝的多様性の明確な減少は見られなかった。しかしながら、遺伝的有効集団サイズの経時的な変化を調べたところ、半数の調査地点において有効集団サイズが津波前の半分以下になっていることが明らかとなった。有効集団サイズの減少は同系交配や遺伝的浮動を加速させ、集団の存続に甚大な影響を与える可能性があるので、今後も継続したモニタリングが必要である。本研究により、東日本大震災に伴う大津波がホソウミニナの個体数を減少させ、さらに遺伝的構成にも大きな影響を与えたことが明らかとなった。


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