| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-456 (Poster presentation)

施肥条件と品種に着目したポット試験による水稲-土壌系の窒素収支の評価

*荒井見和,常田岳志,長谷川利拡,林健太郎(農環研)

多収性水稲品種のタカナリは,コシヒカリと比べて窒素吸収量が多いが,土壌窒素変化量等も含めた窒素収支への影響は不明である.そこで,植栽(コシヒカリ,タカナリ),無植栽と窒素施肥の有無(無施肥区:0N,施肥区:SN(1 g N pot-1=32 g N m-2))を組み合わせたポット栽培試験(n=3)を行い,土壌窒素量の変化とインプット(降水,潅水,肥料,その他)・アウトプット(イネ,その他)から水稲-土壌系の窒素収支を評価した.水稲登熟期の土壌窒素量は,栽培開始前と比べ0Nでは両品種とも初期土壌の2〜5%相当の49〜161 mg N pot-1の減少を示し,SNではコシヒカリはほぼ変化せず,タカナリでは10%増加した.水稲-土壌系の窒素収支のうち未測定項目(窒素固定,脱窒,アンモニア揮散等:「その他のインプット−その他のアウトプット」に相当)を測定項目の差し引きから求めると,SNのコシヒカリとタカナリおよび無植栽区はそれぞれ−310,−41,−669 mg N pot-1となった.またSNの登熟期のコシヒカリとタカナリの窒素含有量はそれぞれ0.71と0.68 g N pot-1であり,見かけ施肥窒素吸収率はそれぞれ71と68%であった.これらから,無植栽では施肥窒素の半分以上が脱窒やアンモニア揮散により損失すること,見かけ施肥窒素吸収率に品種間差がほとんど見られないにもかかわらずSNのタカナリで土壌窒素が増加するのは,コシヒカリと比べて施肥窒素の有機化が多く,脱窒やアンモニア揮散が少ないこと,あるいは窒素固定が多い可能性が考えられた.一方,0Nの未測定項目の収支は,コシヒカリとタカナリがそれぞれ−8と−121 mg N pot-1であり,SNとは異なる傾向を示した.以上より,品種及び施肥条件の双方が,水稲-土壌系の窒素収支に大きく影響を及ぼすことが示された.


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