| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T03-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
植物は,近隣個体との競争に頻繁に曝されている.種ならびに血縁識別は,種間や種内に生じる競争において有利となるための重要な能力であると考えられており,植物は近隣個体の存在に応じて自らのふるまいを可塑的に変えることが報告されてきた.植物の種子は,分散によって到達した場所で発芽し,近隣個体との競争に打ち勝たなければならない.種子は,光や温度といった周囲の環境に応じて発芽タイミングを変えることが知られているが,近隣個体の種や血縁度といった生物的環境までも把握しているのかについては,これまで全く検証されてこなかった.そこで本研究では,実生における血縁識別が確認されているオオバコの種子を用いて,種間及び種内競争といった状況を実験的に再現し,種子が近隣個体を識別しふるまいを可塑的に変えるのかを明らかにすることを目指した.他種競争者であるシロツメクサ種子の存在下で,オオバコ種子の血縁個体と非血縁個体をペアにしたときの発芽速度を比較した.その結果,血縁個体とペアにした種子では,他種競争者の存在下で発芽が促進され,発芽タイミングはペア間で同期することが明らかになった.発芽の促進と同期現象は,血縁個体の水抽出物に曝すことでも再現されたことから,水溶性の化学物質が識別のキューである可能性が高い.本研究で得られた成果は,植物が,種子の段階から近隣個体の種や血縁度を識別し,複数の情報をもとに状況に応じた可塑的なふるまいを示すことを,初めて明らかにした.