| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T11-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

食物網研究に同位体は有用か?解決すべき問題点と可能性

長田穣(地球研)

食物網は種間相互作用のひとつである捕食-被食関係に注目して、生物間のネットワークをえがいたものである。ここ数十年でめざましく発展した食物網理論によれば、食物網の構造が生物群集内のエネルギーの流れや安定性といった動態に非常に大きな影響を与えている、という仮説が支持されているように思える。しかしながら、自然生態系の食物網は非常に複雑で、その構造を定量的に把握することが難しく、その仮説を検証することは容易ではない。現在報告されている定量的な食物網の多くは、観察や胃内容分析に多大な時間と労力をかけて得られたものであることが知られている。

近年、そうした食物網構造の定量化を容易にする手法のひとつとして安定同位体が注目されている。捕食者の体内に含まれる炭素や窒素、硫黄といった元素の安定同位体比は(濃縮というプロセスを経て)食べた餌生物の値を反映することが知られ、その特性を利用することで、それぞれの餌生物をどのような割合で食べたか明らかにすることができる。しかし、もともと安定同位体は特定の捕食者のみに注目した食性解析の分野で発展してきた手法であり、食物網全体に適用することがあまり想定されていない。

本講演では、動物組織の安定同位体比からその生物が食べている餌生物の割合を推定する安定同位体混合モデルという統計モデルを簡単に説明し、現時点で安定同位体が食物網研究においてどのように用いられているのか紹介する。また、これから安定同位体を使うことで明らかにできると予想されることを整理し、群集生態学の発展に安定同位体がどこまで貢献できるのか、集会の参加者と議論したい。


日本生態学会