| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T13-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

カナダ西海岸における保残木施業と渓流・渓畔域生態系への影響評価

五味高志(東京農工大学)

カナダ西海岸では、2000年代はじめから保残木施業の実施面積が増加している。ブリティシュ・コロンビア州立大学の実験林である、Malcolm Knapp Research Forest(MKRF)においても、1990年代に実施された渓畔林緩衝帯の実験に引き続き、2002年から保残木施業が河畔や渓流生態系に及ぼす影響を検証する流域実験が実施されてきた。ここでは、MKRF内のGriffith Creek(流域面積:10ha)における材積率50%伐採による保残木施業実施前後の、水温と底生動物群集の調査結果から、保残木施業の渓流生態系への影響評価の事例を報告する。

底生動物は2004年9月の保残木施業実施を含む2002~2007年までの春秋年2回計測された。また、水温は流域の上流から下流の3流路区間を対象とし、10分間隔で観測された。伐採前後で、底生動物の個体数密度が2526n/m2から3863n/m2と有意に増加した。とくに、コカゲロウ科(Baetidae)、トビイロカゲロウ科(Leptophlebiidae)、ヒロムネカワゲラ科(Peltoperlidae)などが増加し、コカゲロウ科の増加は施業後の日射量と藻類生産量の増加と関連していると考えられた。この日射量増加に対し、対照流域法による解析から保残木施業実施後に1.6~3℃の水温上昇が確認された。ただし、河床間隙を対象とした水温と動水勾配の観測から、斜面からの地下水供給と河床間隙における渓流水と地下水の交換が顕著である流路区間での渓流水温上昇量が抑制される傾向があった。すなわち、伐採による影響のみならず、斜面から渓流への流域水文過程の違いにより、同一流域内においても施業後の渓流環境の変化が異なると考えられた。


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