| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T14-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
東南アジアや南米の熱帯林では、タケ類が森林撹乱地を占有することで、その後の植生遷移に影響を及ぼすことが知られている。しかし熱帯林におけるタケ類の分布拡大過程の定量的知見は乏しい。我々は半島マレーシアのフタバガキ丘陵多雨林に分布するタケ類2種、Gigantochloa ligulataとSchizostachyum grandeを対象に、空間分布と動態を調査した。地下茎の伸長によって広い空間を占有できる温帯性タケ類と違い、両種を含む熱帯性タケ類では地下茎が伸長せず株立ち型のラメット集団を形成する。そのため、ジェネット個体が形態的に識別できる。ジェネット個体のサイズをラメット稈数で定義すると、個体サイズの成長は、稈集団の加入・死亡過程である。森林伐採の強度を変えた野外実験から、稈の加入速度と死亡速度を光条件と個体サイズの関数として定量化した。得られたサイズ成長パラメータを用いて、平衡状態でのジェネット個体群のサイズ分布を推定し、観察されたサイズ分布と比較した。その結果、両種に共通して、明るい場所により多く分布し、明るい場所でジェネットが大型化する傾向が見られた。ラメット稈の相対加入速度は、林冠撹乱の強度が高い(G. ligulata)、ないしは林冠葉群密度が低い(S. grande)森林で高く、個体サイズ(=稈数)の増加に伴って減少した。対照的に、両種のラメット稈の枯死速度はいずれの林冠状態変数にも個体サイズにも関係していなかった。ジェネット当たり稈集団の動態解析から推定した平衡状態のサイズ分布は、観測されたジェネットサイズ分布を概ね再現していた。本研究は、熱帯性タケ類の株立ち特性とモジュール性を利して、ラメット集団動態とジェネット個体群動態を統一的に解析する手法を初めて適用し、熱帯林のタケ個体群動態を定量化した。