| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T14-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
ササ類は日本の森林の林床に広く優占するが、空間をどのように占有して個体群を発達させるのか、その個体群動態に関するデータは乏しい。ササ類は長寿命で一回繁殖型の生活環をもち、数十年に一度、広い範囲で個体が同調して開花・枯死する。秋田県十和田湖畔のブナ林では、1995年にチシマザサ個体群の一部が広域で同調開花・枯死した。枯死後の個体群の回復過程は林床における光環境の不均質性に強く影響され、暗い閉鎖林冠下ではバイオマスの回復速度が遅いことが明らかとなっている。一方、同じ森林内でも 1995年に開花・枯死しなかった林床では、バイオマス密度が光環境に依らないことから、やがてはチシマザサが森林全体に密な個体群を発達させると考えられる。本研究では、1995年にチシマザサが枯死した区域に設置した 9 m2 のプロットを用いて、更新後 10年目にあたる 2005年から 7 年間にわたって個体群動態を調べた。各プロットにおいて、稈の遺伝子型からジェネット(一つの種子に由来する遺伝的な個体)を識別し、デモグラフィーに影響を及ぼす要因について分析した。その結果、明るい林冠ギャップ下では 7 年間でジェネット数が減少したが、暗い閉鎖林冠下では増加していた。多くの稈をもつ大きなジェネットほど生存率が高く、小さなジェネットが生育していた空間は別のジェネットによって置き換わる傾向が見られた。また、閉鎖林冠下ではプロットの外部からクローン成長によって定着したジェネットが大型の稈をつくることで、バイオマス生産に大きく寄与していた。このような結果をもとに、チシマザサにおける空間の獲得戦略や、このような生活環が進化した背景について考える。