| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T15-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

アリ科女王の長期間にわたる精子貯蔵メカニズム

後藤彩子(甲南大学理工学部生物学科)

女王アリは羽化後まもない時期にしか交尾しないため、交尾後に精子を寿命が続く限り、精子貯蔵器官である「受精嚢」に貯蔵する。女王アリの寿命は十年以上と、昆虫としては例外的に長寿のため、精子貯蔵期間も極端に長い。通常、動物のオスの精子は交尾後数時間から数日で劣化することを考えると、女王アリの精子貯蔵能力は極めて特殊な能力であるが、そのメカニズムは不明である。

本研究では、長期間の精子貯蔵に関与するメカニズムを探るため、キイロシリアゲアリ女王を材料にし、RNA-seq法により体全体と比較して受精嚢で多く発現している遺伝子を網羅的に探索した。その結果、精子貯蔵に関与すると予想していた抗酸化酵素、シャペロンタンパク、受精嚢内環境に影響するイオンや糖輸送体をコードする遺伝子、具体的な機能は不明だが、発現量が極めて多い遺伝子もいくつか見つかった。これらのうち、興味深い130遺伝子の受精嚢での発現部位を調べた結果、多くの遺伝子が受精嚢だけではなく卵巣や中腸で発現していたが、受精嚢のみで高発現する遺伝子を12個発見することができた。

また、精子の代謝に影響をおよぼす精子の運動に着目し、精子貯蔵期間が数週間〜数ヶ月と比較的短い種ではキイロショウジョウバエやカイコ、ツチバチでは受精嚢内精子が運動しており、精子を数年以上貯蔵するセイヨウミツバチやアリ科では受精嚢内精子は運動していないことが明らかとなった。これらのことから、長期間の精子貯蔵には、受精嚢内の精子を不動化させることが重要であることが示唆された。


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