| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T15-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

交尾前後の性選択圧に応じたオスの繁殖成功

香月雅子(筑波大・生命環境系)

性選択は、メスとの交尾をめぐるオス間競争やメスの配偶者選択を含む交尾前性選択と、精子競争や隠れたメスの選択といった交尾後性選択の2つに分けられる。これまでの研究の多くはどちらかに注目したものであった。しかし、生涯を通した選択圧が個体の適応度を決定するため、交尾前後の性選択の関係性を調べることは重要である。そして、この交尾前後の性選択圧とその関係性は、環境によって異なるだろう。

本研究では、まず、アズキゾウムシCallosobruchus chinensisのオスにおける交尾前後の性選択に関係する形質配分を調べた。結果、交尾後の性選択に関係する形質である精巣サイズと交尾に投資する精子数と、配偶者の獲得(交尾前性選択)に関連する形質である分散(メス探索)能力の間で、トレードオフがあることがわかった。加えて、探索能力の高いオスと精巣サイズの大きなオスはそれぞれ、交尾成功が環境条件によって変化した。メスと遭遇しにくい環境では、探索能力の高いオスの交尾成功が高かった。一方、メスを見つけやすい環境では、両者の交尾成功度には違いがなかった。この場合、分散能力に関わらずにメスを獲得できるため、より精巣サイズが大きなオスが交尾後の性選択(精子競争)に有利になるだろう。このように、環境によって異なる形質への選択圧は、オス適応度にも違いを及ぼした。これらから、環境変化と形質間のトレードオフが協働して、オスの代替的な繁殖戦略の維持に作用していることが示唆される。


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