| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T19-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

「赤とんぼの行方」:アカネ属を増やす水田管理に向けて

神宮字 寛(宮城県立大)

アキアカネSympetrum frequensは北海道から九州まで分布し、水田を主な生息場所とする普通種である.アキアカネが普通種となったのは、水田耕作の開始以降と考えられている。それまでは、河川の氾濫原にできた湿地を生息場所として利用していたが,湿地が水田に変わり,アキアカネは個体数を著しく増加させることができたと考えられている.ところが,近年,アキアカネの減少があいついで報告されている。鹿児島県、長崎県、徳島県、三重県および大阪府は,各県のレッドリストにおいて,アキアカネを絶滅危惧種あるいは準絶滅危惧種に指定している.アキアカネの主な減少要因には,農薬に加え中干しの影響も大きいとされる.マイクロコズムを用いた実験では、中干しが慣行的に行われるとアキアカネ幼虫の死亡率が大きくなることが指摘されている.一方,幼虫が10齢に到達すれば乾燥耐性が高まり、その後、乾燥条件におかれても羽化が成功する.中干しは,安定した収量を得るために不可欠な水田管理技術であるが,環境保全の役割も求められている.例えば、コウノトリとの共生を図っている兵庫県の水田地帯では,餌であるトンボのヤゴを中心とした水生動物の保護のために,中干し開始時期を慣行栽培より約3週間遅らせる「中干延期稲作」を実施している.これによって,アキアカネの羽化成功率は高まると思われる.しかし,中干し開始日が遅くなるほど収量低下につながり,農業者に経済的な損失をもたらす.中干し開始日をアキアカネ幼虫の10齢到達日までに短縮できれば,アキアカネの保全効果が期待できるとともに,中干しの過度な延期を抑制できる.本発表では,中干し管理に着目し,アキアカネ卵と幼虫の発育ゼロ点と有効積算温度をもとに, 10到達予測日の推定を行った.そして、現行の慣行栽培の中干し開始日と10齢到達予測日の比較からアキアカネ保全に有効な中干し実施日の提案を試みた.


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