| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T19-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

「田んぼのただの草の行方」:伝統的無農薬農法の水田植生から見えてくるもの

嶺田拓也(農研機構・農村工学研究所)

桐谷編「改訂版 田んぼの生きものリスト」(2010)によると,わが国の水田およびその付随環境(畦畔,水路,ため池等)には1,978分類群以上の維管束植物が生育する。そのうち113種がレッドリスト掲載種(環境省2012)であり,耕作水田でも生育可能と考えられるレッドリスト種も40種以上にのぼる。一方,縄文期から古墳期にかけての水田遺跡から出土した埋土種子リスト(笠原1977)をみると,現在の水田雑草の構成とほぼ変わらず,また1940年代の全国の水田雑草分布調査(笠原1947)からは,現在も強害雑草として防除対象として扱われている草種と並んで,今やレッドリストに掲載されている草種の多くが普通種として広く各地に生育していたことが伺える。このことから,水田雑草群落の質的種組成は水稲栽培が開始されてから大きな変化はないが,量的種組成はこの数十年で大きく変化したといえよう。この量的種組成の変化は,1950年代以降のほ場整備や除草剤の導入,施肥体系の変遷などが少なからず関わってきたと考えられる。しかし,雑草群落の種組成は土中の埋土種子集団に大きく依拠するため,質的種組成の変化が可逆的か不可逆的であるかは,埋土種子集団の消長に大きく関わるだろう。では,現在の水田でかつての種組成が戻る可能性はどのくらいあるのだろうか。本報告では,立地や水利条件,ほ場整備歴,ほ場管理歴,そして継続年数が異なる各地の自然農法水田における植生調査から,タイプカプセルとして保持されてきた埋土種子集団の存在を間接的に示し,かつて普通種だったレッドリスト種を含む水田雑草群落が各地の水田で戻る可能性について考察したい。なお,対象とした自然農法とは,自然堆肥による土つくりを中心に農薬や肥料など外部からの投入資材に頼らず,また水稲も昔ながらの晩生品種を選び,なるべく昔ながらの栽培体系を維持しながら耕作する農業形態である。


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