| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T19-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

コメント:地域の多様な種群に対応している生態系管理の現場から

嶋田哲郎((公財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)

生態系サービスをえるための農業や漁業など里地里海での人間の生業から,気候変動や地震,津波,火山噴火など地球規模で生じるものまで,生態系はつねにさまざまな規模の撹乱を受けている.そして生物はそれに常に応答することを迫られる.

里地里海のような人間の管理圧の強い地域での生態系管理では,モニタリング,評価,地域合意,保全事業という流れを繰り返しながら順応的管理をすすめていく.保全事業という人為的撹乱による生物の応答をモニタリングによって評価していくことは特に重要である.

一方で,東日本大震災のような地球規模で起きる撹乱では,その規模の大きさから評価までに多くの時間がかかる.第一義的には撹乱に対する生物の応答をモニタリングすることが重要となる.

ここでは撹乱規模の違いに対する生物の応答の2つの事例を紹介する.ひとつは里地にある宮城県伊豆沼・内沼において,オオクチバス侵入という人為的撹乱に対する生物の応答と順応的管理,もうひとつは東日本大震災という地球規模の撹乱をうけた沿岸被災地において,ガン類の一種であるコクガンが示した応答である.

伊豆沼・内沼では,オオクチバスの捕食によって,在来魚類の漁獲量は3分の1に減少した.しかし,卵,稚魚,成魚というオオクチバスの生活史全体で駆除圧を高め,順応的管理をすすめた結果,オオクチバスは減少し,在来魚類が回復しつつある.

南三陸沿岸で海藻類を採食して越冬するコクガンは,震災前には漁港内で採食することなく,沖合いの養殖筏を採食場所としていた.しかし,津波によって養殖筏が消失したこと,地盤沈下によって漁港内の岸壁が潮間帯になり,海藻類が生育したため,採食場所を漁港内にシフトした.

撹乱規模の違いによってその生態系の順応的管理のすすみ方は異なる.現場の研究者は具体的なデータを地道に蓄積することで,生態系管理の適切な方向性を見定める必要がある.


日本生態学会