| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) A02-06  (Oral presentation)

形質マッチングに基づく互恵関係と発生的安定性のJoint Evolution

*山内淳(京都大学)

形質の一致に基づく相利共生の進化について、発生的安定性の進化に注目して理論的な解析を行った。前回の大会でも同様な解析を発表したが、今回のものはその発展形である。潜在的に相利的な関係を持ちうる2種の生物を想定し、両者の関係に寄与する形質の進化を考えた。本来それらの形質には方向性淘汰が作用し、相利的な相互作用がない場合には形質が大きくなる方向もしくは小さくなる方向に独立に進化する。しかしながら両者の形質値が近づくと、相利的な効果によって両種に利益がもたらされる。形質値が近い状態が進化的に維持される場合を、相利共生の成立と見なした。
 個体の遺伝子型に対して、形質値は発現過程での環境要因や発生的不安定性によりバラツキを示す。また、形質値が厳密に一致していなくても、ある程度の近さであればそれなりの相利的効果があるだろう。そうした要因を組み込んで、ある形質値を持つ2種の個体の適応度を定式化した。一方、植物と送粉者の共進化に関して、近年、発生的安定性の進化が相利共生の進化に影響を及ぼす可能性が論じられている。そこで、2種の生物の発生的安定性も進化形質であるとして、それぞれの種の形質値および発生的安定性の4形質の共進化過程を解析した。なお発生的安定性については、淘汰圧の作用しない状況では有害な突然変異によって徐々に不安定性が高まると仮定した。
 解析の結果、発生的安定性の進化は相利共生の進化を促進する効果と抑制する効果の両方を持ちうることが分かった。しかし発生的不安定性が無限に大きくなることはないという制約を含めると、一般に発生的安定性の進化は相利共生の進化を促進する。本モデルの定式は、環境変動に対するコストを伴う恒常性の進化にも適用することできる。本解析は、発生的安定性および恒常性の進化と、形質の一致に基づく相利共生の進化との関係を、一般的に論じるための枠組みを提供する。


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