| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-05  (Oral presentation)

熱帯雨林に生息するクワガタムシ科の群集ダイナミクス~周期性消失へのレジームシフトが起きたのか?~

*上野弘人(九大・理・生物), 佐竹暁子(九大・理・生物), 川津一隆(龍谷大・理工), 市岡孝雄(京都大・人環)

明瞭な乾季がなく年中高温多湿といえるボルネオ島などの東南アジア熱帯雨林においても生物の群集動態はダイナミックな変化を示す。したがってその要因の解明には、良質な長期観測データと非平衡・非線形動態を分析できる手法の二点が必要となる。
マレーシア・サラワク州ランビル国立公園では、多様な昆虫群集を対象にライトトラップを用いた長期モニタリングが推進されてきた。特に、本調査地では1997〜98年にかけて乾燥による大規模な山火事が生じており、環境要因が群集動態に与える影響の解析に適している。そこで我々は、朽木を利用するクワガタムシ群集に着目し、1)1993年~1999年までの月毎の標本を分類・整理し長期の時系列データを作成、2)ウェーブレット解析を用いた動態の周期性の検出、3)非線形時系列解析Convergent Cross Mapping(CCM)を用いた環境要因と各クワガタムシの因果関係の推定,4)動態の類似度を比較可能な手法を新たに構築し、大規模乾燥の前後で群集動態に変化が生じた可能性を検討をした。
その結果、クワガタムシ群集の変動は、主に4月~5月(春)あるいは10月~12月(冬)に発生頻度の高いグループと毎月常に活動可能なグループに分類できることがわかった。また、季節性がみられない分類群では環境要因との間に因果関係はないが、春に出現するグループでは21日前の4日間積算降水量と4日前の43日間積算温度、冬に出現するグループでは56日前の8日間積算降水量に顕著に制御されていることがわかった。最後に、クワガタムシ群集は種数だけでなくその動態も乾燥の前後で大きな変化を示したことから、大規模乾燥が群集のレジームシフトを引き起こした可能性が示唆された。発表ではこれらの結果を考察することで、複雑な動態を示す熱帯の生物群集において動態の制御因子を検出するためのフレームワークの提案を行う。


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