| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-02  (Oral presentation)

アリ類の個体間相互作用ネットワーク

*庄司一貴, Adam Cronin(首都大学東京理工学研究科生命科学専攻)

演者は、人間社会や生命現象に普遍的な複雑系システムに関する研究を行ってきた。複雑系システムは、簡単な行動ルールに従う個々の構成要素の相互作用からなる。複雑系システムでは、単純なルールにしたがう構成要素の相互作用により、個体のみでは成し遂げられない正確な集団的意思決定などの集団レベルの行動が創発される。演者は、特にアリ類をモデル生物として確立し、複雑系システムにあたる集団行動と群知能に注目してきた。アリ類の集団行動の研究成果は、アリコロニー最適化アルゴリズム(ACO)など、コンピュータサイエンスの発展と実社会の輸送経路などの効率化に多大な貢献をしている。しかし、これまでのアリ類を用いた行動学的研究は、個体間相互作用データを得ることが困難であったため、個体レベルもしくは集団レベルのみに注目してきた。そのため個体レベルと集団レベルの中間の階層にあたる個体間相互作用が、アリ類の複雑系システムをどのように機能的に維持しているかはブラックボックスとなっている。そこで本研究ではこのブラックボックスに光を照らすべく、最先端の拡張現実バーコードと動体追跡システム、撮影装置を用い、個体間相互作用ビッグデータを得ることを目標とする。さらに社会科学やタンパク質相互作用など関係性を扱う分野で広く利用されているネットワーク分析により、相互作用ビックデータを解析する。そしてアリ類における複雑システムの適応的機能を解明することを目標とする。本研究成果は、人工知能の発展に貢献するACOに代わる新たなアルゴリズムの発見につながる可能性があると考えられる。また、社会性昆虫研究においてミクロ生物学と同様なオミックス革命を誘発する可能性がある。オミックス革命とはミクロ生物学分野におけるパラダイムシフトの一つで、個々の遺伝子やタンパク質のみの機能解析だけではなく、相互作用に注目して生命現象を解明しようとする研究姿勢である。


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