| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-05  (Oral presentation)

寄生バチに行動操作されるクモのRNA-Seqによる遺伝子発現変動解析

*髙須賀圭三(神戸大院・農), 前藤薫(神戸大院・農), 河野暢明(慶大・先端生命研), 荒川和晴(慶大・先端生命研)

寄生者による行動操作は、寄生者の生存にのみ資する行動を寄主に強いる現象であり、寄生者の影響が寄主生物の表現型にまで及ぶ点で注目に値する。クモの造網行動を改変するクモヒメバチもその一例として挙げられるが、その操作の分子機構は未解明である。本研究では、垂直円網性のギンメッキゴミグモを操作し、クモが脱皮の前に張る装飾糸つき脱皮網を“操作網”として強制的に発現させるニールセンクモヒメバチの操作系を用い、クモの円網・脱皮網・被操作の3フェイズ(各3個体以上)でRNA-seqを行い、比較した。円網性クモは、7種類の糸腺を使い分けることが知られており、解析では糸腺ごとのタンパク発現量に着目した。脱皮網と被操作では、実際の行動と一致して、装飾糸の材料となるAciniformが比較的高く発現し、また本来は捕虫用スパイラル(操作網にはない)の材料となるFlagelliformのisoformの一つが被操作および脱皮網にのみ有意に高く発現しているという結果を得た。このことより、脱皮網と操作網の発現における共通性が見出された一方で、遺伝子発現量によるクラスタリングでは、被操作は円網・脱皮網と大きく異なる発現ダイナミクスを示しており、造網行動操作がクモに生得的な遺伝子を単純に発現させているだけではないことも示唆された。


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